- 1. Background
- 2-1. 音響光学材選択
- 2-2. 音響光学素子の構造
- 2-3. ARコーティング
- 2-4. デジタル変調
- 2-5. アナログ変調
- 2-6. DC コントラスト比
- 2-7. RFドライバの構造
1. Background
音響光学素子(AO素子、AO : Acousto-Optic)は、レーザー装置内などで強度変調やビーム位置の電気的制御のために広く使われています。 ここでは AOモジュレータの理論と応用について解説します。
ある媒体内にレーザー光線と音響波が存在する時、すべての光学媒体において音響光学効果が起こります。 音響波が光学媒体中に入ると、正弦グレーティングのように作用するある屈折率を持った波が生じます。
入射レーザー光はこのグレーティングを通過する時、いくつかのオーダーに回折されます。 適切に素子を設計すれば、1次回折光線に最大効率を持たせることができます。 この光線の偏向角度は音響周波数に対して比例するため、高い周波数ほど偏向角は大きくなります。
λ は空気中での光の波長、faは音響波周波数、Vaは音響波速度、そしてθは 0次光と 1次光の間の角度です。
図 1.は、音響波とレーザービームの角度関係を示しています。
回折光(偏向光)の強度は、音響波パワー(Pacと、材質の性能示数(M))、幾何学的ファクタ(L/H)に比例し、波長の二乗に反比例します(計算式 2.参照)。
音響光学素子では、ビームの偏向と強度変調が同時に可能です。 加えて、レーザービーム周波数は、音響周波数と同じだけシフトします。 この周波数シフトは、精確な位相情報が測定できるヘテロダイン検出のアプリケーションに使用できます。
2-1. 音響光学材選択
音響光学媒体の選択は、波長(光学透過範囲)、偏光、パワー密度などのレーザーパラメーターにより決定します。 表 1.は、Brimrose社製 AOモジュレータによく使われている媒体の概要です。
可視および近赤外領域では、AOMは主にガリウムリン(Brimrose社が最初に開発)、二酸化テルル、インジウムリン(Brimrose社が最初に開発)、カルコゲナイトガラス(Brimrose社が最初に開発)、または溶融石英が使用されます。
赤外領域では、ゲルマニウムが、変調器として比較的性能示数が高いということで唯一商品化されています。
リチウムナイオベート、インジウムリンおよびガリウムリンは、高周波数(GHz)の信号処理用素子として使用されています。
表 1. Acousto-optic material characteristics.
材質 | 波長範囲 | 偏光 | 最大CW レーザーパワー [W/mm2] |
屈折率 | 音響モード | 音響速度 [km/sec] | 性能指数 x10-15 m2/W |
モジュレータ シリーズ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
カルコゲナイトガラス | 1.0‐2.2 | ランダム | 0.5 | 2.7 | L | 2.52 | 164 | AMM-0-0 |
フリントガラス SF6 | 0.45 - 2.0 | ランダム | 0.7 | 1.8 | L | 3.51 | 8 | FGM-0-0 |
溶融石英 | 0.2 - 4.5 | 直線 | >100 | 1.46 | L | 5.96 | 1.56 | FQM-0-0 |
ガリウムリン | 0.59 - 10.0 | 直線 | 5 | 3.3 | L | 6.3 | 44 | GPM-0-0 |
ゲルマニウム | 2.0 - 12.0 | 直線 | 2.5 | 4 | L | 5.5 | 180 | GEM-0-0 |
インジウムリン | 1.0 - 1.6 | 直線 | 5 | 3.3 | L | 5.1 | 80 | IPM-0-0 |
リチウムナイオベート | 0.6 - 4.5 | 直線 | 0.5 | 2.2 | L | 6.6 | 7 | LNM-0-0 |
リチウムナイオベート | 0.6 - 4.5 | 直線 | 0.5 | 2.2 | S | 3.6 | 15 | LNM-0-0 |
二酸化テルル | 0.4 - 5.0 | ランダム | 5 | 2.25 | L | 0.62 | 34 | TEM-0-0 |
二酸化テルル | 0.4 - 5.0 | 円 | 5 | 2.25 | S | 5.5 | 1000 | TEM-0-0 |
2-2. 音響光学素子の構造
音響光学媒体として選択された結晶は光学研磨され、リチウムナイオベートのトランスデューサが最先端技術を用いて金属圧縮接着されます。 Brimrose社の金属接着技術は、エポキシ接着よりも非常に優れた音響カップリング性があります。
非常に高性能な金属接着剤のみ使用されています。 トランスデューサは、1GHzレベルの共振周波数までが入力できるよう加工されます。
2-3. ARコーティング
Brimrose社では AOモジュレータに多層膜ブロードバンドコートもしくは V-コーティングを施します。
通常のロスは共振器外の使用で数%、共振器内のデバイスで 0.2%です。
2-4. デジタル変調
AOモジュレータの主たる性能パラメーターは、伝搬時間 t によって 第1に決まる変調スピードです。 伝搬時間 t と立ち上がり時間 trは計算式 3.で求められます。
速い変調スピードを得るためには、t はなるべく小さい値にすべきです。 実際には、ビームは通常 AOモジュレータの相互作用領域内に集光されます。
また、音響波の拡がり角 Δ0 は、図 2.のように入射光すべてが回折するよう光の拡がり角 Δφ に限りなく近くすべきです。
AOモジュレータは、レーザービームを外部TTL信号により“ON”と“OFF”にするシャッターとして使うことができます。
TTL信号はコンピューター操作が簡単です。 ON-OFF信号をサポートするために、AOMの立ち上がり時間はデジタル波形の伝搬に伴わなくてはなりません。
3つの代表的な音響光学媒質の立ち上がり時間 vs スポットサイズのプロットデータは図 3.のとおりです。
2-5. アナログ変調
AO変調器は非線形トランスファ関数を持ちます。 従って、アナログ変調システムとして使用する場合は注意が必要です。
変換関数を特徴化し、50オームインピーダンスの入力ドライブボート内へ適切な電圧を供給することが最も単純な制御です。
正弦変調には、トランスファ関数の線形領域の作動ポイントへバイアスを移動することが必要とされ、多くの場合適切な立ち上がり時間を確保するためにビームを絞る必要があります。
変調トランスファ関数(MTF)は計算式 4.のとおりです。
fmは変調周波数です。 典型的な MTFは、2-4. 図 3.を参照してください。
ビデオ帯域幅は、MTFが 0.5まで落下する周波数範囲 fmにより定義されます。 ある fmでの変調コントラスト比は、計算式 5.から算出されます。
2-6. DC コントラスト比
ダイナミックコントラスト比は変調周波数の増加により減少し、変調器の周波数応答は駆動中に劣化します。
DC コントラスト比は計算式 6.で定義されます。
Imax = 測定最大レーザー強度であり、 I min = 1次光に対する測定最小レーザー強度です。
DCの場合、Iminは散乱光と変調器の駆動 RFのリークによって変調された光によるところが大きいです。 最適コントラスト比を得るために Imaxは最適でなければなりません。
通常 DC コントラスト比は500~1000です。
2-7. RFライバの構造
RFドライバは通常、入力調整が可能なインターフェースをもつ RF振動子、振幅変調器、および AOMを作動する RFアンプから構成されます。
各データシートに、詳しい変調器 / ドライバシステムの駆動の仕様が記述されています。
語句説明
AOBD | AOビームディフレクタ |
---|---|
D | 光学アパーチャ [m] |
Δφ | アパーチャ幅 Dに対するコリメートレーザービームの拡がり |
λ | 光の波長 [m] |
λFa | 全バンド幅 [MHz] |
ΔT | アパーチャ時間 [秒] |
p | レーザー光の Truncationファクタ |
W | 1/e強度点での集光ビーム径 |
a | ビームに関するパラメーター |
FL | レンズの焦点距離 [m] |
Dfa / dt | 周波数変調レート |
M2 | 音響性能指数 |
Pac | 音響パワー [W] |
t | 変調したレーザー光の立ち上がり時間 [秒] |
DIA | レーザービーム径 |
---|---|
MTF | 変調トランスファ関数 |
fm | 変調周波数 |
fo | 特性周波数 |
Imax | 最大強度 |
Imin | 最小強度 |
CR | コントラスト比 |
V Coat | 狭帯域反射防止コート |
θb | ブラッグ角 |
θ | 2θb = 偏向角度 |
fa | 音響周波数 [MHz] |
η | 変調器の回折効率 |
L | 相互作用の長さ |
H | トランスデューサの長さ |