蛍光イメージングの技術には正しいフィルターの選び方を知っていなければなりません。フィルターセットはシステムとアプリケーションに合わせてデザインされます。光源、蛍光試薬とディテクタはフィルターの光学仕様要求を決め、顕微鏡のメーカーとモデルで物理的な仕様を規定します。
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※オメガオプティカル、蛍光顕微鏡プロダクト・マネージャー ダン・オズボーン氏
蛍光アプリケーション用のフィルターセットを選ぶことは難しくもありますが、顕微鏡、光源、ディテクタと蛍光試薬の知識があればその意思決定はより簡単になります。フィルターセットの光学特性は特定の蛍光試薬の励起と発光スペクトルに対応します。物理的な外形、サイズ、厚さは特定の機器ハードウエア用につくられます。
フィルターセット
スタンダードエピ蛍光理化学顕微鏡は、回転タレットまたはスライダに何個かの「フィルターキューブ」(顕微鏡特有のホルダにフィルターがマウントされたもの)があり、一度に1つの色素用フィルターキューブを光路に動かすことでシングルまたはマルチ蛍光を達成し、理化学グレードのカメラ(CCDやCMOS)、PMTや目のようなディテクタ上でその画像情報を収集します。イメージングを成功させるには、フィルターキューブが光源、蛍光試薬、ディテクタにあっていなければなりません。
各フィルターキューブはエキサイタ、ダイクロイックミラー、エミッタの3枚のフィルターを保持するように設計されています。 エキサイタは入射光に対して垂直に配置するようにデザインされ、蛍光試薬の吸収プロファイルに対して特定の波長を透過するバンドパスを持っています。 フィルターを通した励起光は45°に置かれたロングパスダイクロイックミラーによって反射され、蛍光試薬を励起します。 このミラーは反射バンド内で90パーセント以上の光を反射し、透過範囲の光を90パーセント以上透過するようなユニークな特性を持っています。 これによって励起光と蛍光発光を光学セットアップ内で適切に導きます。
励起されると、蛍光試薬はより長い波長で発光し、ダイクロイックミラーとエミッタでディテクタへと通じます。 エミッタはすべての励起光をブロックし、高いシグナルノイズ比で品質の高い画像形成に必要な蛍光を透過します(図 1.)。
フィルターは物理的、光学的に厳しい仕様と交差をもって製造されます。 例えば、フィルターセットは3枚のフィルター交差に互換性があるようにデザインされています。 フィルターをランダムに交換してしまうと、性能に支障が出てきてしまいますのでご注意ください。
フィルターセットのデザイン
各フィルターは特定のアプリケーションに対して適切なレベルのコントラスト(バックグランドに対するシグナル)を達成することを目標としています。 このためにはまず最初に、高い強度をもつ励起光から弱い蛍光発光を確実に分離しなければなりません。 これは主にエキサイタとエミッタに与えられたブロッキング仕様で達成されます。 光学密度(OD)、ブロッキングのレベルは, –log T(透過)で計算されます。例えば、OD 1=10パーセントの透過、OD 2=1パーセントの透過、OD 3=0.1パーセントの透過となります。
バックグランドの「暗さ」はエミッタを通した励起光の減衰によってコントロールされます。 減衰のレベルはエミッタを通過した励起エネルギーの総量で決定されます。」 フィルターはバンド近辺の波長で入射エネルギーを深くブロックします。 それは理論上>OD 10の値を達成します。 従ってフィルターセットの特長をとくに強調する決め手となるのは、エミッタの青色エッジとエキサイタの赤色エッジでのバンドから深いブロッキングへのスロープです。 エキサイタとエミッタのODカーブがオーバーラップするポイントはクロスオーバーポイントと呼ばれます。 シングルバンドフィルターセットは、高いレベルで励起光を遮断し、バックグランドを軽減してコントラストの増加を達成するために通常必要なクロスオーバー値は>/=OD 5です。 マルチバンドセットは視覚的識別アプリケーションで多く使わるので、クロスオーバーのブロッキングと値はそれほど必要なく、≥4 OD程度で十分に良いコントラストが得られます。
バンドパスフィルターは長波長側をブロックし、短波長を大体300 - 400nmまで透過するショートパスと、短波長をブロックし長波長側を透過するロングパスのデザインを組み合わせてつくられます。 透過とバンドブロッキング近辺の間のスロープの鋭さは、フィルターデザインと位相厚により、これはとても重要な特長です。
位相の厚さは干渉コーティング層の数とその物理的厚さ両方によって決まります。 この組み合わせフィルターのデザインはモノリシック基板の片面にコーティングができます。 その上、UVやIRまでの拡張ブロッキングのコーティングをもう片方の表面に施すことができます。 高い位相厚をもつフィルターコーティングは、5デケードのスロープファクタが≥1%の鋭利なスロープをつくります。 つまり、1%のスロープファクタでは、500nmロングパスフィルター(透過50%)は495nmでOD5のブロッキング(透過の0.001パーセント)または、500nmマイナス1パーセントということになります。 あまり仕様に対する要求が厳しくなく、安価なデザインだと、5デケードスロープファクタは3から5パーセントになります。 蛍光イメージングでは励起と発光の最大値が非常に近いような、ストークスシフトが小さい蛍光試薬などの場合、鋭利なエッジを持つフィルターが使われます。 広く使われている蛍光蛋白E-GFPは、励起の吸収最大が488nmで発光の最大が509nmです。 ストークスシフトがわずか21nmなので、蛍光発光から励起光源の光を分離するために使うフィルターは短い波長距離で非常に高度なブロッキングを達成することが不可欠です。
もしエキサイタとエミッタのエッジが鋭利でなければ、深いブロッキングを得るためには 2つのフィルターは光学的に離れて配置されなければなりません。 これだと蛍光試薬の吸収と発光最大のところで、フィルターがフォトンを受け渡したり獲得したりする能力を狭めてしまいます。
システム概要
エピ蛍光システムは蛍光顕微鏡で最も一般的です。 スタンダードフィルターセットはそのアプリケーションの蛍光試薬、水銀かキセノンランプなどの励起に使う白色光源に最適化した透過とブロッキングを持っています。
水銀アークランプはその明るさから最も一般的です。 この365、405、436、546、577nmの5本のエネルギーピークを持ち、アプリケーション性能に影響し、フィルターセットデザインで考慮されます。 キセノンランプはそれほど明るくはありませんが、300から800nmの間で均一性のある発光を持ち、ピークは~820nmで始まります。 これは特にレシオイメージングにお勧めです。
ニポウディスクコンフォーカル顕微鏡はエピ蛍光システムと類似したオプティクスを含むので類似したフィルターが必要になります。 しかし、レーザースキャニングコンフォーカル顕微鏡は、励起に使われる特定のフィルターデザインを要します。 そのレーザーによるセカンドラインや好まれないバックグランドシグナルがある場合はカスタムエキサイタが必要になります。 エミッタはOD5以上のブロッキングと二次的な表面でスキュー光線が反射することを最小化する目的で両面に反射防止コーティングが必要となります。
エピ蛍光システムのように、ダイクロイックミラーは効率的に特定のレーザー波長を反射し必要な蛍光を透過すべきです。
マルチフォトン顕微鏡、他のレーザーベースの蛍光テクニックはチューナブルパルスTi:sapphire赤外レーザーを要します。 この光源は従来の蛍光システムに反してより短波長の蛍光色素を励起します。
焦点で、蛍光試薬は 2つのフォトンを同時に吸収します。 その複合エネルギーは蛍光試薬の電子をより高いエネルギーレベルへと高め、それによって電子が基底状態へ戻る時より低いエネルギーのフォトンを発光します。 例えば、900nmレーザーパルスは450nmを励起し、蛍光試薬によって~500nmで蛍光発光します。 この技術は一般的にはショートパスダイクロイックミラーとレーザーラインを深くブロッキングするエミッタを使用します。 多目的ショートパスダイクロイックミラーは700から1000nmの間、Ti:sapphireレーザーの範囲の発光を反射し可視光を透過します。 エミッタは蛍光を透過し、レーザー光をOD6以上でブロックしなければなりません。
アプリケーション関連
研究所などではエピ蛍光関連のいくつかのアプリケーションが開発されてきています。 そしてその中のいくつかはコンフォーカルやマルチフォトンにまで広がってきています。 例としてレシオイメージングはカルシウムイオン濃度、pH、分子間相互作用のような環境パラメーターを定量化するために使用され、それには特殊なフィルターセットが必要です。 例えば、カルシウム依存蛍光試薬Fura-2は励起ピークが340と380nmでこれらのピークと一致するエキサイタとこれらを反射するダイクロイックミラーが必要です。 キセノンアークランプは励起範囲全般で均一した強度を持ちエピ蛍光に最適な光源です。 水銀アークランプはエネルギーピークによる影響をバランスよく減衰するフィルターが必要です。
蛍光共鳴エネルギー遷移(FRET)では、ドナー蛍光試薬から近接したアクセプタ蛍光試薬への双極子間相互作用を通してエネルギーが遷移します。 ドナー発光とアクセプタ励起は遷移が起こるためには光学的にオーバーラップしなければなりません。 スタンダードFRETフィルターセットはドナー用エキサイタ、ダイクロイックミラー、アクセプタ用エミッタから構成されます。 色素の存在を確認するためにドナーとアクセプタ用の別々のフィルターセットもあったほうがいいですが、一番大切なことはアクセプタのエキサイタへドナのブリードスルーは避けることができないので、シングル色素のコントロールが必要です。
近年、蛍光検出は臨床検査室でも多く使われています。 マラリアを引き起こす寄生虫、プラスモディウムのテストはもともと薄く伸ばした血液染色サンプルを顕微鏡下で観察していました。 経験豊富な組織学者であれば、良質のスライドガラスがあればプラスモディウを特定することはできますが、潜在的な病原体を現場で迅速に識別するニーズがある第三国などではこのような方式では間に合いません。 正しいフィルターセットを搭載したポータブル蛍光顕微鏡と核酸結合色素Acridine Orangeを使う方式では、アッセー時間を大幅に軽減し、感度が高い結果を得られます。
その他のテストは、特に病原性酵母やC. albicans、S. aureus などの病原性バクテリアに特化したリボゾームRNA(rRNA)として知られる、PNA(ペプチド核酸)でタグ付けされた蛍光試薬を使います。 この方式では2時間以内に正確に陽性、陰性反応が得られます。 この感度と、処理時間が軽減されたことで、細胞培養法に比べて陽性患者の発見率が上がりました。
どちらの方式も、必要な蛍光を得るためにはフィルターで特定の励起光がサンプルに当たるようにする必要があります。 また、正確な結果を常に得るためには求められるシグナルレベルと色が再現されなければなりません。 そのためには、フィルターメーカーの使命は、各フィルターに厳しい交差を規定し、臨床検査の現場で適切に機能することを確実にしていかなければならないと考えています。
迅速に市場に広がっていく蛍光試薬の種類、CCDカメラの量子効率が1200nmまで延びたことなどから、マルチカラーイメージングは800nm以上まで伸びてきています。 フィルターの組み合わせ方はアプリケーションによって複数あり、各々特有の利点と欠点があります。 スタンダードマルチバンドフィルターセットは目で複数の色を同時に検出でき、DAP(I青)、フルオレセイン(緑)、ローダミン/テキサスレッド(オレンジ/赤)のような昔からある蛍光試薬用にデザインされています。 2、3色セットが最も一般的です。 4色セットの4番目の色は650から800nm範囲の蛍光試薬になります。 複数バンドがあることで、シングルバンドフィルターセットにあるような深いブロッキングは制限されてしまい、マルチバンドセットはシグナルノイズが低くなります。 カメラ上でシグナルノイズと蛍光試薬間の識別を上げるためには、シングルとマルチバンドフィルターで構成されるPinkelセットがあります。 エキサイタスライダとフィルターホイールが付いた顕微鏡では、マルチラベルされたサンプルに対してシングルバンドのエキサイタを切り替えて使うことができます。 Pinkelフィルターホルダとサンプルスライドは固定したままなので、レジストレーションエラーを最小化します。 Sedatセットのハイブリッド型はフィルターホイールに似たようなシングルエキサイタを何枚か、フィルターホルダにマルチバンドのダイクロイックを組み合わせます。 このようなハイブリッド型はいままでのPinkelセットよりもシグナルノイズ比と識別を向上します。 マルチバンドセットと比べたPinkelセットとSedatセットの欠点は、コストアップと同時に複数の色を画像化できないことです。 その代わり、別々の画像に対して市販のソフトウェアを使うことができます。
Fluorescence in situ hybridization (FISH) アプリケーションは単一サンプルで多くの色の画像をとることができます。 例えば、複数の蛍光試薬でラベルされたDNAプローブは単一染色体上で遺伝子の非色を識別することができます。 シグナルノイズ比と色識別を最適化するには狭帯域のシングル色素用フィルターセットが必要です。
フィルターは光学的に近隣した蛍光試薬の励起/発光オーバーラップを最小化するために、スタンダードバンドパスフィルターよりも厳しい光学交差を持たせなければなりません。 マイナーなバンドのエッジシフトが蛍光試薬の識別に大きく影響することもあります。 さらに、この狭帯域フィルターは適切なシグナルを得るために透過を最適化しなければなりません。 蛍光顕微鏡のフィルターセット選びは非常に複雑です。 適切なバンド幅、ブロッキングの程度と範囲、アプリケーションに合ったフィルタータイプかなどが考慮されることが重要です。
フィルター選択については、オプトサイエンスまでお問合せください。